2025年初め、日本のスマホアプリ市場にちょっとした“異変”が起きました。
ゲームアプリが常に上位を占める中、なんと電子マンガアプリ「LINEマンガ」が全体売上1位に躍り出たのです。
ゲームではないアプリが1位になるのは異例のこと。しかも、「モンスターストライク」や「ポケモンTCGポケット」などのビッグタイトルを抑えての結果とあって、業界でも話題となりました。
特に注目すべきは、LINEマンガが現在日本国内のWebマンガ市場で約半数のシェアを占めている点です。
以前は「ピッコマ」が圧倒的でしたが、いまや立場が逆転。では、なぜLINEマンガがここまで急成長したのでしょうか?
その背景には、ユーザー目線に立った6つの戦略がありました。
スクロール型マンガに“違和感なく慣れさせる”工夫

LINEマンガの大きな特徴は、「縦スクロールで読むWebマンガ」という点です。
この形式は、いわゆる“紙のマンガ”に慣れている日本の読者にとっては、最初は少し違和感があるかもしれません。
しかしLINEマンガは、いきなり韓国式のフォーマットを押し付けるのではなく、段階的に馴染んでもらう戦略をとりました。
- 2021年:ページをめくる感覚を大事にしたUI設計を導入
- 2022年:日本向けのオリジナルWebマンガの制作に着手
- 2023年以降:スクロール形式に最適化された新作を中心に展開
このように、「慣れ」を前提とした設計でサービスを進化させた結果、違和感なく自然とスクロール型マンガに移行するユーザーが増えたのです。
日本の作家が活躍できる“インディーズ支援”
LINEマンガは、韓国作品の配信だけでなく、日本人作家の作品発表の場としても存在感を高めています。
特に注目されているのが、誰でも自由にマンガを投稿できる「インディーズ」という仕組み。
ここから生まれた『先輩はおとこのこ』は大ヒットとなり、アニメ化・映画化まで実現しました。
こうした取り組みには、次のようなメリットがあります。
- より多様な作品が生まれる:日本の文化や感性に合ったWebマンガが自然に増える
- “自分ごと”として受け入れやすい:日本人作家の活躍によって、LINEマンガが親しみやすくなる
また2024年には、国内のWebマンガ制作スタジオへの出資も行われ、本格的に日本市場に根を張った運営体制が強化されました。
LINEマンガが日本で急成長している背景には、単なる作品数の多さだけでなく、「作品の広がり方」と「読みやすさの仕組み」に秘密があります。
今回は、読者の興味を引き込むために取り入れられた2つのポイントをご紹介します。
日本では珍しいジャンルで新しい読者層を開拓
日本のマンガ市場といえば、恋愛・スポーツ・バトル系などが定番ジャンル。しかし、LINEマンガはそこに“ちょっと違う”ジャンルを積極的に投入し、新しいファン層を取り込んできました。
たとえば……
- 軍事アクション系の『入学傭兵』
- 宮廷ロマンスの『再婚承認を要求します』
- 仄暗い世界観の『略奪花嫁』や『上司がヤクザ系男子』
といった、日本ではあまり見られなかったジャンルがヒット作品となり、月間売上が1億円を超える作品も続出しています。
中でも『入学傭兵』は、2023年だけで1作品あたり月に1億8000万円(約16億円)の売上を記録し、LINEマンガを代表する大ヒット作となりました。
こうしたジャンル戦略によって、「これまでのマンガに物足りなさを感じていた層」や「ライトノベルや海外ドラマが好きな層」が新たにLINEマンガに流入してきたのです。
AIが“次に読むべき作品”を教えてくれる仕組み
「どれを読んだらいいかわからない」「面白そうな作品を探すのが大変」
──そんな悩みを持つ人にとって、LINEマンガのAIレコメンド機能は大きな助けになっています。
実はLINEマンガでは、25億件以上の読者データをもとに、個人の好みに合った作品を自動で推薦するシステムが導入されています。これにより、
- 好みの作品にすぐ出会える
- 新しい作品を発掘する楽しさが生まれる
- 「なんとなくアプリを開いても読みたいものがある」という感覚
が生まれ、読者の定着率も大きく向上。2024年の月間課金ユーザー数は前年比14%増の230万人に達したと報じられています。
さらにこのデータは、作品の仕入れや広告戦略にも活用され、“売れる作品”を科学的に見極める土台としても機能しています。
読者にとっての価値:もっと「自分に合うマンガ」が見つかる

これらの戦略を通じて、LINEマンガは単なる「作品を読む場」ではなく、「自分の趣味にピッタリ合ったマンガと出会える場所」へと進化しています。
普段あまりマンガを読まない人でも、ちょっとした興味から入りやすくなっており、結果として新規読者の裾野がどんどん広がっているのです。
LINEマンガがここまで成長できたのは、マンガアプリとしての完成度だけが理由ではありません。
作品そのものの魅力を、アニメや映画、さらには海外展開という形で広げていく“IP戦略”が、さらにブランドの価値を高めているのです。
アニメ・映画・グッズ展開で「読む」を超える楽しみへ
最近では、マンガがヒットするとアニメ化や映画化がセットで行われるのが当たり前になりつつあります。
LINEマンガもその流れに乗り、ここ数年でオリジナル作品のメディアミックス展開を一気に加速させました。
実際に、2022年には映像化された作品は1本のみでしたが、2024年には12本、2025年にはアニメ化プロジェクトが20本以上進行中だと報じられています。
たとえば……
- 『クレバテス』
- 『ダークムーン』
- 『全知的読者の視点から』
といった作品は、アニメ化に向けて制作がスタート。視聴をきっかけにLINEマンガで原作を読む新規読者も増加しています。
このようなIP展開のメリットは以下の通り。
IP展開のメリット
- 原作の再ブームを生む
- アニメを見た人がLINEマンガに流入
- グッズやイベントで収益が多様化
- プラットフォームのブランド力向上
つまり、作品そのものを“コンテンツ資産”として活かすビジネスモデルが成り立っているのです。
世界中の読者とつながる“グローバル連携”の強み
LINEマンガは日本市場での成功にとどまらず、他国のWebtoonプラットフォームとも連携しながら、グローバル展開にも力を入れています。
その仕組み
- 日本で人気のオリジナル作品を海外に輸出
- 海外で話題の作品を日本でも配信
- 各国のトレンドを共有し、企画や作品選びに活かす
この“グローバル⇔ローカル”の流れをうまくつないでいるのが、LINEマンガの最大の強み。世界中のマンガファンが集まりやすい“コンテンツハブ”としての立ち位置を築いています。
たとえば、ある作品が日本でヒットすると、そのデータが海外にも活かされ、英語・スペイン語など多言語版が配信される──そんな世界規模でのマンガ共有が、現実のものとなっているのです。
LINEマンガの成長から学べる3つのビジネスヒント
LINEマンガの成功事例は、マンガ業界だけに限らず、あらゆるサービス・プロダクトの海外展開やマーケティングにも応用可能です。特に注目すべきポイントは以下の3つ。
✅ ユーザー習慣を尊重しながら新しい体験へ導く
UXを一気に変えるのではなく、「違和感のない変化」を設計することで、自然な移行が成功する。
✅ ローカル人材・コンテンツへの投資が中長期で効く
現地作家や企業とのパートナーシップが、長く愛される土台を築く。
✅ “一つの成功”を別の形や国へ広げるIP戦略
アニメ化、グッズ化、海外展開…ひとつのヒットを“点”で終わらせず“線”や“面”で広げていく。
LINEマンガは「読む」だけじゃない、新しいマンガ文化の入口
LINEマンガの快進撃は、単なるアプリのヒットにとどまりません。
それは、ユーザーとの向き合い方、作品の見せ方、そして広げ方を進化させた結果です。
今後も「読む」だけでは終わらない、“体験としてのマンガ”がもっと増えていくでしょう。
LINEマンガは、その新しいスタンダードを日本市場でつくりつつあります。